柏崎・長岡(旧柏崎県)発、 歴史・文化・人物史
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 様々な議論があるかもしれないが、日本の国民皆保険制度は、世界に類を見ない制度として評価された時代もあった。 もうずいぶん前のことだが、文京区の伝通院に、当時(60~70年代)、医療問題評論家として有名だった石垣純二先生を訪ねたことがある。 確か、伝通院の事務所は二階建の古びたビルで、その二階の事務所は、壁面全てが本棚で、そこに溢れた本やら資料の束が所狭しと置かれていた。 窓を背にした先生の大きなデスクも、書き物をするスペースしか無い状況だった。 事前に連絡をしてもらっていたので、「話しは聞いている。 まあ、どうぞ、と言っても」と、書類の束で隠れたソファを片付けながら、「この有様だから、勘弁」と言われた。

 訪問の目的は、海外における医療制度と病院システムについて、御教授頂くことだったのだが、さて、その経緯をよく覚えていないのだ。 ただ、当時、慶応病院のシステム構築に携わっていたので、それに関連してではないかと思うのだが。 いずれにしても、医療問題、特に病院のシステムと地域医療に関して調べていた時期なのだ。 勿論、失礼にならないよう、事前に各国の事情などは調べていたが、私の関心が、社会問題としての医療ではなく(全くないという訳ではない)、病院のシステムを構築する際に必要な地域を含む医療のマン・マシンシステムに関することであった為、少々ちぐはぐな話から始まった。 何しろ、当時の私は、学生に毛の生えたようなガキである。 ただ気負うところがあり、分もわきまえず話したようだ。 しばらく黙って聞いておられたが、その後は、言わずもがな。

 医療問題の話になると、今でも、このときのことが思い出される。 スウェーデンのリューデラント、サンフランシスコのカイザイー記念病院とカイザー・パーマネンテ、そして、英国エグゼター市の所謂「エグゼター・シティ・プロジェクト」、皆、石垣先生からお聞きしたことなのだ。 その後、私なりに調べて来た。 特に、十数年前、フィンランドのサイバー・ヘルシンキ・プロジェクトが発表になった時、改めて、カイザーやリューデラントを調べ直す機会を得た。 理念も進歩していたが、実際のシステムも、技術的発展に即して大いに発展していたのだ。

 ところが、どうであろう。 石垣先生にお会いした時から既に30余年、わが国における医療システムは、技術的には進歩したが、さて理念や社会システムとなると、はたと、首をかしげるのだ。

 特に、昨今の国民保健の問題を傍見すると、先人たちが描いた理想とは程遠いものを感じるのだ。 例えば、先に上げた「エグゼター」の例がある。 医療財政に破綻を来たした英国政府は、1つのモデルとして「エグゼター・シティ・プロジェクト」を実施した。 専門医と開業医(ジェネラル・プラクティショナー)の分離(ホーム・ドクター制度と、ホーム・ドクターの紹介がなければ専門病院にかかれないなど)、開業医への世帯割り当て(1人の開業医に対して600世帯を割当てる制度)など、その他にも在ったのだが、記憶が定かでない。 いずれにしても地域全体を有機的にカバーする医療システムを構築したのだ。 (記憶違いがあれば、御容赦の程。 何しろ大昔のことなのだ。)

 ただ、この計画には、批判もあったようだ。 余りにも先進過ぎたのかもしれないし、あるいは冷戦時代を背景にした極度に社会主義的政策に反発があったのかもしれない。 しかし、この計画は、基本的には成果を上げたようだ。 私が、その計画書や資料を読んだ30余年前には、そのような報告があった。 その時読んだ書籍の中の1冊を、つい最近まで持っていたのだが、現在は行方不明だ。 もしかすると、誰かに貸したままなの
か?

 先回、武見太郎先生について触れたが、石垣純二先生とは犬猿の仲とか。 国民保健について喧々諤々の論議が世情を賑やかせたものだ。 さて今は、と言えば、本質論ならぬスキャンダル的空論が横行しているように見受けられる?

 我家は、保険的には二重構造。 女房殿は社会保険、私と息子は国民健康保険。 実は、切実なもんだなのだ。 さて、どうなることやら。 まあ、刹那的楽観主義、今を大切に生きるしかあるまい。

(12月15日)『柏崎通信』421号より転記


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