柏崎・長岡(旧柏崎県)発、 歴史・文化・人物史
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  久々にウィリスの登場である。 ウィリスは、鹿児島県に「意志の給料について提案」している。 上京した際、東京病院(ウィリスの前任地)関係者の月給の一覧を入手したのでと、その一覧を揚げている。 (以下、萩原延壽著『遠い崖』参照。)

 
 学校学事主務兼院長    250両(円)
 学校大教授                 200両
 学校中教授兼通弁       150両
 少教授                       100両 
 大助教                         70両
 中助教                         50両
 
 これに対して、鹿児島の医学校・病院の医師の給料が余りにも低いとというのだ。
 
 「例えば、二名の最年長の医師、鮫島淳安と坂元幽斎の年収が、石高9石で、これを換算すると年俸28両(円)にあたり、月額にすると2両半にしかならず、日当に換算すると1分(一両の四分の一)の三分の一にもならに。 高木藤四郎(兼寛、後の海軍軍医総監、慈恵会医科大学の創設者)の場合は、更にひどく(確か2石だったか)、その他になると、1分の四分の一にも満たない報酬しか支給されない。 これは人足の日当にも劣る。 数年にわたる研鑽を必要とする有能な医師をどうしれ育てることが出来ようか」と嘆き半分怒り半分なのである。
 
 そこでウィリスは、次のような提案をしている。 (尚、鹿児島医学校・病院の職制は八等級あった。)
 
 第一等40両(円)、第二等35両、第三等30両、第四等25両、第五等20両、第六等15両、第七等10両
 
 先の例でいくと、単純計算で16倍の金額である。 それでも、東京病院に比べれば雲泥の差があり、ウィリスは、最低限の給料だと提案している。 この提案が採択されたかどうか、著者である萩原氏もこの時点では未発見だと書いている。 いずれにしても、当時の鹿児島医学校・病院の医師たちの生活が困窮していたことを窺わせる資料である。 
 
 ところで、「方外の人」という言葉がある。 身分制度の社会で、強いて言えば「圏外」あるいは「身分制度の外」の人あるいは職種の人という意味で、医師、僧侶、神官、画家、学者、作家、武芸者、面白いところでは囲碁の棋士などが、それにあたる。 今風に言えば「自由業」がこれに当たるのかもしれない。 ただ、役者などは、「方外の人」には入らないようだ。
 
 鹿児島医学校・病院の医師で、扶持を受給している人もいるので、彼らを一概に「方外の人」といえないのかもしれないが、少なくとも、身分制度の序列外に在ったことは事実だろう。 因みに、朝廷や幕府の典医の場合は、地下人という、お目見え以下の位階を与えられた。
 
 少々横道に逸れるが、「方外の人」の収入を調べてみた。 ところが、これがよく判らない。 幕府とか藩に帰属する場合は、分限録などからある程度調べることが可能だろうが、市井の人ということになると、税金も無いのだから記録も無い。 要するに定収入がないということだろう。 有名な葛飾北斎や滝沢馬琴のなどの生活からして、裕福とは程遠い。 学者や武芸者などは、お抱えで無い限り、収入は、塾や道場の束脩(謝礼、入学金や授業料)が主たる収入であり、時には、各地を歴訪し、特に、弟子を訪問し、公開講座のようなものを行って、収入を得た。
 
 最近でこそ、ある程度、事情が判ってきたのだが、以前は、幕府の典医や昌平黌(昌平坂学問所)の医師や学者が、何故、私塾を開くのか疑問だった。 上記の如く、お上からの収入では、よほど有名でもない限り、家計は火の車が実情だったのではないだろうか。
 
 さて、鹿児島医学校・病院だが、どうも、当時の鹿児島県には、藩幕時代からの慣例が続いていたということなのだろう。 こうしてみると、当時の人々、特に、方外の人々の収入を調べつ事が、その時代の情況を知る上で、有意な指標になるのではないかと思えるのである。
 
 これは、現在のも言えるのではないだろうか。 また、その時代時代の「方外の人」の収入が、その社会の文化や活力のバロメータになるのではないかと思うのである。 ついでに言えば、地方の活力の指標にも。
 
Best regards
梶谷恭巨

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