柏崎・長岡(旧柏崎県)発、 歴史・文化・人物史
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  ウィリスの人となりを考える場合、何処かに違和感を感じていたのだが、重大な事実を忘れれていたことに気付いた。 それは、アイルランドにおける大飢饉の問題だ。 別件で、エイリー島財団のデータベースを参照した。 ある時期、アイルランドからの意味が急増する。 その原因が、所謂「The Great Hunger」と言われるアイルランドの大飢饉だった。

 
 農村部における主食的存在になっていたジャガイモがほとんど全滅に近い不作になり、また、囲い込み運動で、生活の基盤が危うくなったアイルランド、特に、北部の住民は、この大飢饉で、100万人が餓死するか、海外に生活を求めた。 ウィリスが育ったのは、丁度、この時期なのだ。 この大飢饉は、手元の資料によると、既に、1840年代には予兆があったようで、その10年後、大飢饉として表出した。
 
 違和感というのは、ウィリスの文脈に見える優しさの反面、金銭面に固執するといえるほど、地位よりも俸給に言及する彼の報告書や書簡のコンテキストだった。 なぜ? アーネスト・サトウとの余りにも大きな視点の位置が気になっていたのだ。
 
 ウィリスは、明治4年、モンマスで開業医をしていた長兄・ジョージから、父の死を知らされる。 その父の死に対する書簡は、当に恨みつらみの文脈だ。 彼は父親をして、「不公平、不正義の権化」とまで言う。 その父親は、アイルランド北部モンマスの中農であり収税吏だった。 そして、家を継ぐ三男をを除けば、男の兄弟の全てを大学に進学させ、三人ともに医師にした父親なのだ。 因みに、長男は海軍軍医を経て開業、次男は海軍軍医である。
 
 ウィリスの戊辰戦争、あるいは北越戦争における視点は、この成長期における大飢饉を抜きにしては語れない、というのが、今の感想である。 彼の言によれば、一人の姉、二人の妹に対する父親の姿は、自分のイメージにも増して悪魔的存在だったようだ。 終生、ウィリスは、その父を許さなかった。 余談だが、ふとキルケゴールの父親のことが思い浮かんだ。 ユトレヒト半島の貧農出身の彼は、「神を呪う」といい、そのことがキルケゴールの生涯について回る。
 
 しかし、ウィリスの書簡などを読む限り、大飢饉に関する記述がないのだ。 これは何を意味するか。
 
 医師として、博愛の精神を説き、事実、当時のお雇い外国人に見られる功利主義を排し、子弟であり同僚である薩摩の若い医師たちの待遇改善を唱える彼が、時として、強烈な自己主張をする。 例えば、鹿児島医学校・病院に就任する時の履歴書には、間違いなく、柏崎が登場するのだが、以前紹介したように、強いて言えば「ぼろくそ」の表現で柏崎を評しているのだ。 しかも、往復二回。 これは、少々気になっていた。
 
 2mに近い大男だったそうだから、その印象は、各地に残っていると思った。 ところが、アニハカランヤ、戊辰戦争従軍中は、新発田でのみ、その足跡をしることになった。 当時の平均的身長が、高くても精々160cm、そこに2mの大男ウィリスが登場すれば、びっくり仰天の世界である。 要するに、160cmもあれば大男の時代なのだ。 例えば、坂本龍馬の身長が170cm強、中岡慎太郎に至っては150cm強、アーネスト・サトウの身長は判らないが、ウィリスは、見上げなければならないほど大男な訳だ。
 
 鹿児島でも、その存在は、畏敬というより、恐るべきとか、怖いというような印象があったのかもしれない。 それは、『ガリバー旅行記』とか「ホビット」の世界に迷い込んだ印象だったのであろうか。 因みに、『ガリバー旅行記』の作家、スイフトもアイルランド人である。 ついでに言えば、ホビットの生みの親・トールキンは名が示すとおりドイツ系、南アの生まれであることに興味がわく。 大体、登場人物の出身地が意外だ。 イングランドではないことが多いのだ。 何なのだ?
 
 話をウィリスに戻す。 ウィリスの育った時代は、アイルランドにとって、重大事件が続いた時期でもある。 オコンネルの登場、連合法、そして、「大飢饉」である。 ほかにも宗教問題、カソリックの公認など、アイルランドの歴史上、大きく方向が変わる時代だ。 ウィリスの人格形成に影響を与えなかったとは思えない。 しかし、何分にも知識が不足している。 今後の課題とした。

 そこで、現在、Cecil Woodham-Smith著『The Great Hunger』を読み始めたところである。 (随分前に購入した本なのだが、読む機会を逸していた。) 論旨が錯綜してしまった。 尻切れトンボになるが、続きは、多少とも、近代アイルランド(ゲール)・イングランド比較史を勉強してからにしたい。 
 
 
 
 
Best regards
梶谷恭巨

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