柏崎・長岡(旧柏崎県)発、 歴史・文化・人物史
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  丁度、入試の時期で、学校などへの問合・回答も一休みの状態である。 そこで、近代デジタルライブラリーの文献をあれやこれやと探していると、意外に面白い資料に行き当たるものだ。 「ああ、この人、こんな所に関係があったのか」とか、まあ、そんな具合だ。

 羽石重雄の足跡も、福岡・修猷館以降については、残すところ長崎県立島原高等学校への問合せの回答待ちだ。 そこで、傍系の事実関係を資料に求める。 面白いことに、修猷館の同窓会誌『館友会雑誌』の第一号の論説に寄稿した「高槻純之助」という人物を追いかけていたら(羽石重雄も第五高校在学中に寄稿している)、思わぬ人物に行き当たった。 すなわち、長岡では有名な「橋本圭三郎」である。

 何と、明治23年7月、東京帝国大学法科大学政治学科を件の「高槻純之助」と同期で卒業していたのである。 橋本圭三郎の名前は、日本石油・第二代社長(山田又七の後、宝田石油社長)として、また、宝田石油と日本石油の合併を画策した立役者としては、記憶にあったが、その詳細な経歴については知らなかった。 そこで、長岡市の発刊した『ふるさと長岡の人々』と『長岡歴史事典』を改めて読んで見ると、記載に誤りがあることが判った。 同書には、法科経済学部卒とあるのだが、先にも書いたように、『東京帝国大学一覧』によれば、当時、「経済学部」というものはなく、法科大学政治学科の卒業なのである。 学制の変遷期でもあり、もしかすると、経済学部なるものが存在した時期があるのかと、在籍期間を遡って調べてみたが、参考科とか一部・二部・三部という分類はあるようだが、特に経済学に拘わる記載がない。 下って、明治44年の卒業生名簿まで確認したが、矢張り「法科大学政治学科」だった。 まあ、重箱の隅をつつくようなことなので、特にどうとも思わないが、資料を追いかけていると矢張り気になるものだ。

 ところで、経済学科が分離独立したのは何時のことか調べて見た。 明治44年には、法科大学に経済学科がない。 そこで、大正以降と調べると、大正元年(1912)に経済学科の名前が登場している。 更に、経済学部が独立した時期を求めて見ると、大正8年(1919)、分科大学制度が廃止され、学部制が導入されると同時に、経済学部が登場している。

 それは措くとして、長岡と福岡との関係があったことに興味が湧く。 当時の教育人事には、人間関係が相当に影響している。 例えば、漱石の『野分』のモデルといわれる「坂牧善辰」は、長岡中学の後に、鹿児島県の中学校長を歴任した後、三条中学校長に就任するとき、当時の部下を引き連れて帰郷しているのである。 良くとも悪くとも取れるのだが、何処か米国の猟官制度(スポイルズ・システム)を思わせるところがある。 特に、草創期においては、強い権限を持ち、教育に対する見識あるいは意識の高い、そして何よりも情熱を抱いた若い校長には最適の時代だったのかもしれない。

 ところで、当時の東京帝国大学とは如何なるものであったのだろう。 その基本となる資料『東京帝国大学一覧』は、明治19年から発刊されている。 そこで、丁度、明治19年の『日本全国民籍戸口表』が閲覧できるので、当時の人口を見てみると、人口が 38,276,376 であり、戸数が 7,727,610 であることが判る。 この数値
を念頭において、東京帝国大学の明治24年における在校生数・1,377を比較すると面白い。

 「各府県別学生生徒人員数表」が残っているので、入学者数の多い順に紹介する。
(注) 数値は、明治24年の在籍者数、人口、戸数は明治19年。 在籍者数については、明治24年から一覧表が作られているので、それを採用した。 それ以前は、名簿から一々拾わなければならないのでご容赦。 その内に、その表を作る予定。

明治24年: (総在籍者数は、1,377名)
(1)東京府、207、 1,314,477 、 315,116
(2)石川県、65、 739,306 、 156,285
(3)福岡県、55、 1,148,528 、 213,245
(4)静岡県、50、 1,002,693 、 192,665
(5)新潟県、47、 1,626,495 、 305,098
(6)長野県、43、 1,057,536 、 217,939
(7)岐阜県、42、 886,062 、 179,732
(7)山形県、42、 717,252 、 115,250
(7)兵庫県、42、 1,471,976 、 319,933
(10)山口県、40、 899,523 、 186,718

 となっている。 数値をどのように判断されるかは皆さんに任すとして、年代毎の在籍者数の変遷は、時代背景を考えると興味深い。 以下、明治44年までの順位と在籍者数を5年毎に紹介する。 年の下の数値は総在籍者数。 各府県の後の数値は各府県毎の在籍者数。 少々見難いかもしれないがご容赦。

   明治25年、  明治30年、  明治35年、   明治40年、   明治44年
   (1,366)、   (2,237)、   (3,522)、    (5,398)、     (5,187)
(1)東京府(195)、東京府(291)、 東京府(487)、 東京府(747)、 東京府(674)
(2)石川県(77)、 福岡県(108)、 山口県(154)、 新潟県(226)、 福岡県(179)
(3)新潟県(53)、 山口県(106)、 福岡県(140)、 福岡県(199)、 熊本県(178)
(4)山口県(52)、 石川県(79)、  新潟県(136)、 愛知県(178)、 新潟県(177)
(5)福岡県(46)、 新潟県(76)、  長野県(111)、 長野県(173)、 愛知県(174)
(6)鹿児島県(42)、愛知県(72)、  三重県(101)、 山口県(160)、 長野県(165)
(7)静岡県(42)、 佐賀県(72)、  静岡県(101)、 岡山県(157)、 岡山県(155)
(8)兵庫県(40)、 鹿児島県(67)、 佐賀県(98)、 宮城県(155)、 兵庫県(149)
(9)長野県(37)、 長野県(60)、  熊本県(96)、  山形県(154)、 山形県(149)
(10)岐阜県(36)、高知県(60)、  山形県(88)、  兵庫県(145)、 静岡県(135)

(注)尚、明治38年の記録がない。 これは、日露戦争の影響と思われる。 尚、24年から拾うつもりが、25年から5年おきになってしまった。 ご容赦。

 以上の様に数値だけでも、当時の時代背景やら力学関係が見えてくるのだが、これを各大学学科毎に調べて見ると、もっと明確な地図が出来る。 繰り返すが、「なるほど、あれはこの人間関係が影響しているのか」と。 明治期における東京帝国大学の歴史は、というよりも、そこで出来上がった人間関係は、単なる大学の歴史ではない。 その後の日本を物語る指標でもあり道標でもある。 同様に、その人間関係に連なる中等教育における人間関係も、重要な歴史的ファクターであるに違いない。

 『柏崎発、学際ネットワーク』で、江戸後期における学者間の系譜あるいは師弟関係を追い始めて今に至るのだが、ここに至って、改めて歴史が人間関係の時空間的、否多次元的連続体であることに思い至る。

 昨今の事件や状況を見るに、人間関係あるいは信頼関係の欠如が、その要因ではないかと考えられるのだが、諸兄は如何ように思われるだろうか。 キルケゴールの研究者として著名な大谷愛人氏は、その著書『倫理学講義』の中で、従来の歴史分類に対し、倫理学的歴史分類として、現在を「バブルの時代」と定義している(『倫理学講義』の発刊の1994年当時)。 当に、その時代、歴史そのものに非連続でも生じたような印象を受けるのである。 特に、「個人情報保護法」が成立し、匿名性が日常になって以来、人間関係が希薄になったと感じるのだが。

 先にも書いたように、戦前のというより、草創期の東京帝国大学で生まれた人間関係は、その後の歴史に大きな影響を与えているに違いないのだ。 それは、地方における草創期の中等学校についても言えるだろう。 その人間関係、あるいは、そこに実存した人々の足跡は、現在を生きる我々の最も身近な必然性あるいあは「Sollen(存在理由)」に連なるものではないのだろうか。

 と、まあそんなことを言っても、路傍の傍観者である自分が言えば、戯言と笑われるだろう。 それでも、こんなことを続けるのは、そこにある面白さなのだ。 思わぬ出会いは、快い。 思わずニタリ。 愉快になる。 中世の昔に思いを巡らすのも楽しいかもしれないが、もっと身近なところを散策するのも一興かと。

Best regards
梶谷恭巨
 

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