柏崎・長岡(旧柏崎県)発、 歴史・文化・人物史
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 昨年の中越沖地震以来、女房殿の老父母宅で晩飯を食するのが慣例になった。 そこで、昔話を聞くのが楽しみでもある。 義父の家、若井氏は、代々越後杜氏。 何時の頃から越後杜氏が生まれたのかが、今回のテーマである。 以下は、その聞き書きであり、憶測である。 歴史的事実とは、少々異なるのかもしれない。

 先ず、話に出てくるのが、徳川家康の十六神将の一人・榊原康政の話である。 義父は、先代、あるいは、それ以前からかもしれないが、上州(群馬県)の館林の造り酒屋、ぶんぶく茶釜で有名な「分福」酒造の杜氏を務めてきた。 その館林の初代藩主が、榊原康政なのである。 義父の話によれば、榊原氏移封の際、酒造りの職人集団、杜氏を伴ったのだそうだ。

 そこで、榊原氏移封の来歴を見る。 榊原氏は、上州館林(1590-1643)の後、奥州白河(1643-1649)→播州姫路(1649-1667)→越後村上(1667-1704)→播州姫路(1704-1741)→越後高田(1741-1871)に移封されている。 義父の話に従えば、これらの各地に榊原流酒造技術が伝播したことになるのだろう。

 最近、元新潟県醸造試験場長で、「久保田」で有名な朝日山酒造の工場長、嶋悌司氏が本を出版された。 その嶋先生の話によると、新潟の酒は、他の地域とは造り方が違うのだそうだ。 曰く、「端的に言えば、新潟の酒は、冷蔵庫で酒を造るようなもの」なのだそうだ。

 少々説明が要るだろう。 もう20数年も昔の話だが、新潟県醸造試験場の場長だった嶋先生から相談を受けた。 当時、造り酒屋が存亡の危機にあった。 杜氏の後継者が居ないのである。 このままでは新潟の酒造りが途絶えてしまうという危機感があったのだろう。 嶋先生は、模索された。 その一つの結果が「赤い酒」なのである。 そして、もう一つが酒造技術のデジタル化なのだ。 白山の試験場を訪ねた時、熱くその危機感を説明された。 「梶谷君、酒造工程のデータをコンピュータで何とかならんか」 同じ醸造でも、我家は醤油の醸造である。 多少の知識があったのが幸いした? 長岡から直接、試験場に行ったのだから割と早い時間だった。 話が延々と続いた。 酒造りの基本から越後の酒の特質まで、まさに講義である。 結局、何日か通うことになった。 まだPCが出始めの時代だ。 「先生、理論的には可能ですが、今のPCでは難しい」、「技術は進歩する。 出来ない事があるものか。 勉強しろ。」と、まあ、そんな具合だ。 中略。 結論を急げば、造り酒屋の若手や跡継ぎにコンピュータを教えろと言うことになった。 実際に、講習会をしたのかどうか、記憶が定かではないのだが、先生曰く、「予算がない。 金がない。 俺の造った赤い酒がある。 あれなら何本でも君に進呈するから持って行け」だ。 これには、流石に閉口した。

 余談が長くなったが、兎に角、新潟の酒の造り方は、他と違うのだそうだ。 当時は、まさか越後杜氏の娘と結婚することになるとは思ってもいなかった。 友人で仲人役の医師・O君と「娘さんを貰い受けたい」と若井の家を訪ねた時、酒を持って行ったくらいなのだ。 女房殿曰く、「あんたら、馬鹿と違う。 杜氏のところに酒を持っていく人がありますか」だ。 まあ、そんなこともあり、義父から酒造りのイロハを習うことになったのである。 勿論、私の関心は、製造工程よりも、その歴史なのだが。 因みに、自然発酵の酒を造ることが出来るのは、義父の他、数少ない杜氏のみとか。

 話を戻す。 姫路には長いこと通った。 機会がある度に、姫路の酒造りの話を聞いた。 姫路の酒は、灘や伏見の酒とは違うのだそうだ。 義父の話からも、嶋先生の話しからも、そのことが窺える。 職人気質の義父は、酒の話になると、先ず、榊原康政のことを話すのである。 義父の弟子は、全国に散らばる。 シーズンが来ると、大袈裟に言えば、各地から新酒が届く。 もっとも、酒の味の判らない私には、「味の判らない奴に飲ませたのでは、勿体無い」と言う。 それでも、一口は味わって飲めとすすめるのだが。

 榊原康政と酒の関係、他では先ず聞いたことがない。 ただ、江川太郎左衛門と家康の関係に、酒が出てくる。 江川氏は、徳川以前から家伝の酒を造っていたそうだ。 御大(おだい)の方は、江川家の養女として、家康に入室している。 その縁が、江川の酒にあったとか。 もしかすると、その流れが、榊原康政に繋がるのかもしれない。 それが、上州館林、奥州白河、播州姫路、越後村上そして越後高田に伝わり、今の新潟の酒造の源になったとすれば、興味津々の話である。

Best regards
梶谷恭巨


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