柏崎・長岡(旧柏崎県)発、 歴史・文化・人物史
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 久々に神道無念流に係わる記事に出会った。 明治から昭和初期に掛けて出版王と云われた博文館の創始者・大橋佐平が、剣術を学んでいたことは知っていたが、神道無念流であったことは知らなかった。 大橋佐平の伝記、坪谷善四郎著『大橋佐平翁伝』を読むと、そのことが書かれている。 少々長いが、その部分を引用する。

 「安政四年藩の剣客野口鉄弥、江戸から帰り来り、剣法を藩士に授けた。 鉄弥は藩士野口豊之丞の次男で、つとに江戸に出で、剣客斎藤弥九郎に就きて学び、その塾頭となり、今は藩主に招かれて帰り来たのだ。 翁(大橋佐平)の家は久しく野口氏と相識れる故、翁は親しく鉄弥に就いて剣法を学んだ。 その頃士人で無くして剣法を野口の門で学びしは、唯翁一人であった。 当時野口門下の高足には、三間正弘、野村貞、篠原六郎、根岸信五郎等がある。 三間は後に憲兵大佐(憲兵司令官、石川県知事等となった)野村は海軍少将(二十七八年戦役[日清戦争]に高千穂艦長として殊勲を立てた)となり、根岸は明治の剣客として聞こえた人だ。」

(注)
○三間正弘: 三間市之進のこと。 長岡の三進といわれ、秀才の誉れが高かった。
○野村貞(ただし): 戊辰戦争では河井継之助と共に榎峠で戦った。 山本五十六の親戚(従兄?)に当たる。 以下、『帝国海軍提督総覧』から引用、「旧名を萩原貞之丞といい、維新後、長岡藩が最初に海軍に送った軍人だった。 スケールがきわめて大きく、かつ底なしの酒豪といわれた。 日清戦争では高千穂の艦長をつとめたが平常はすべてのことを当直将校、航海長にまかせきる放胆型。 黄海海戦では第一遊撃隊二番艦として勇戦した。」 明治32年1月呉鎮艦隊司令官、同年、5月4日没、享年55歳。
○篠原六郎: 詳細不明

 問題は、根岸信五郎である。 根岸信五郎は、後に「有信館」を創設、神道無念流第六代宗家を名乗る。 さて、この「第六代宗家」が何処に由来するのかが、よく判らない。 上記の引用によれば、根岸信五郎は、野村鉄弥から神道無念流を学んでいる。 その後、江戸に出て、斎藤弥九郎の練兵館で修行し、免許皆伝を受けているのだが、評伝としては最も詳しいと思われる木村紀八郎著『剣客斎藤弥九郎伝』には、多くの紙面が割かれていない。 むしろ、数行あるかなしかである。 また、二代目・斎藤弥九郎が、奥州を回り、越後に来訪する際も、長岡には寄っていないのだ。 明治以降、斎藤弥九郎家は、江川太郎左衛門の関係から政治の世界に深く関与していくのだが、もしかすると、三代目辺りから、剣道の世界との関係が希薄になったのかもしれない。

 一方、根岸信五郎は、明治以降廃れていく剣道の再興を図り、晩年は、初等・中等学校での武術の正規科目化運動を展開している。 因みに、『幽芳録』と云う本があるが、そこに、武術が正規科目になった時、根岸信五郎が各地の教員に対して行った講演録等が掲載されている。 それによると、当時の国会議員にも働きかけているのだが、議会提案から法案が実現するまでに、十数年を要したそうだ。 いずれにしても、今の剣道の基礎を確立した人なのである。 しかし、男子には恵まれなかったようで、娘婿に、後の中山博道を迎えている。 しかし、中山博道の兄が死に、家督を継ぐことになり、離縁となっているのだ。 ただ、不和とか不都合があったわけではない。 事実、有信館と神道無念流宗家を継がせているのだ。

 長岡は、剣道の盛んなところだ。 その背景には、根岸信五郎の存在があると思われるが、盛んな反面、その歴史については多くが知られていないようだ。 残念である。

 明治以降、武術は廃れ、新潟・柏崎とも縁の深い男谷精一郎の門人、剣客・榊原健吉等は、激剣興行などして、糊口を凌いだ時代である。 武術を初等注等学校の正規科目にする運動は容易なものではなかったはずだ。 そんな状況にあって、根岸信五郎が、運動していくためには経済的背景が必要であったのではないか。 推測の域を出ないが、野口鉄弥の下で、神道無念流の同門であった大橋佐平の存在が見えてくる。

 また、生田萬の同志、神道無念流の鷲尾甚助(尾張)や鈴木城之助(水戸)とのミシング・リングに繋がるのではないかとの期待もある。 ただ、天保と安政、次代の隔たりがありがあることも事実だ。

 それにしても、剣道はしても、剣道の歴史を知らないという風潮は残念である。 幕末維新、剣道あるいは剣法の果たした役割は、想像以上に大きいのだが。

Best regards
梶谷恭巨


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