柏崎・長岡(旧柏崎県)発、 歴史・文化・人物史
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料理通(グールメー)と榮養料理

  佛蘭西フランスでは料理通とか食道樂のことを、グールメーと呼ぶが、無暗に喰ふ大食家のことは、グールマンと言ってゐる。食物の味や調理法を研究してゐる人を、獨逸ドイツではガストロノマーと云ひ、英語の字引にはガストロノミーは食事の科學サイエンスオブイーティングと出てゐる。語源は希臘でガスターは胃と云ふ字ださうだから、天文學のアストロノミーのアスターが、星である處から見て、ガストロノミーとは胃の學問と云ふのが本來のものかも知れない。人類の文化が進めば進む程、旨く食ふこと、味覺に關する研究が進んで來るのが自然のやうだ。ポンペイの廢墟はいきょの中には、アフリカから取り寄せた孔雀くじゃくの舌ばかりの料理も出たと云ふ、饗宴の古跡があるところを見れば、文化の古い味覺の發達した支那しなに、家鴨の舌計りの料理があるのはとうぜんだらう。それにしても古い希臘ギリシャの時代が胃の學問、調理學、ガストロノミーが、天文學と並びしょうされてゐるのも面白い。

 一體(いったい)文化の(ふる)(くに)程料理は旨いと云ふが、文化が進めば民衆の生活も向上するからである。これは一國内(こくない)でも文化の進まない田舎には料理が發達せず、古い都會(とかい)程料理は旨い。田舎料理に旨いのもあるが、東京よりも上方(かみがた)の方が味覺の發達してゐるのは古いためだらう。(しか)し文化が(おとろ)へれば料理も退歩する。そこへ行くと藝術(げいじゅつ)は残るが、料理は残らないから發達の程度が判らない。残るのは血の中に流れた味覺が、國の盛ん盛なるにつれて又世に現はれて來るのではないか。希臘(ギリシャ)羅馬(ローマ)の流れを汲んだ、ラテン系の佛蘭西(フランス)があれだけ料理が發達して來たのはそのためではなからうか。東では支那(しな)が料理に於ては傑出(けっしゅつ)してゐるのも、文化の古いためであらう。帝大の建築學の敎授であった故塚本博士も、大學の食堂邊りで料理の話が出ると、西では佛蘭西(フランス)、東では支那、これが料理で世界の兩大國(りょうたいこく)だ。さうして食堂の話には向かないが、料理の旨い國はどうも便所が汚ないと()く話された。これは建築家でなければ一寸(ちょっと)気附かない觀察(かんさつ)だ。

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